気持ちが通じ合えたぁー!
会報「第35号 共に生きる」より(平成24年2月発行)
 Tさんは33歳の男性。言葉がなく、いつも耳に手を当てて、緊張したり怒ると、走って自分の耳や頭を叩いて気持ちを伝えます。

 私が担当してまだ約2ヶ月。2人でウォーキングに出かけることになりました。その日は、たまたま玄関に他の利用者もたくさんいて、その中にしんどくなると他の人をつねってしまうJさんがおり、私はJさんことを気に掛けながらIさんと靴を履き替えていました。しかし、少し目を離した際にIさんはJさんに腕をつねられてしまったのです。私はどうしたらいいのか分からず困ってしまい、そのまま玄関を出ようとIさんを誘いかけようとしました。しかし、考えた顔をしてその場から動こうとしないIさん。私はその姿を見てIさんの『痛いなぁ〜、謝ってほしいなぁ〜』という気持ちを感じたので、代弁して「つねったら痛いよ〜、謝ってほしいなぁ」とJさんに伝えました。するとJさんは「ごめんな〜」と謝り、Iさんの腕をなでてくれました。

 その後、Tさんと2人で出発した際に「痛かったな〜僕もつねられたら痛いし嫌やわ」と話をした…というより、自然とその言葉が出てきたのをよく覚えています。すると私のその言葉に対してIさんは私に顔を近づけて『そうやねん。わかってくれたんか〜』というようにギュッと私を抱きしめてくれたのです。その時、確かにIさんと気持ちが通じ合ったのを感じました。そして、のんびりとどこか晴れ晴れとした気持ちでしばらく歩き、2人とも笑顔で「ただいま〜」と帰ってきました。

 障がいがあってもなくても、自分がされて嫌なことはその人にとっても嫌なこと、反対に自分がされてうれしいことはその人にとってもうれしいのだという「当たり前のこと」をそのとき初めて実感しました。また、気持ちが通じ合えた経験を通してIさんのことをもっと知りたいという気持ちが強くなり、関係も一気に深まったように思います。
※写真はイメージです。

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