自分の話やから、自分にもちゃんと言ってほしい
会報「第31号 共に生きる」より(平成22年2月発行)
 誰だって自分に関する話は、自分にもちゃんと伝えてほしいものです。障害があってもなくてもその気持ちは同じです。今回紹介するエピソードの主人公Eさんにも、こんな出来事がありました。

 Eさん(30歳代・男性)は、言葉でのコミュニケーションが難しいですが、簡単なジェスチャーなどで自分の気持ちを表現します。たとえば、声を出して飛び跳ねます。はじめは、なぜEさんが飛び跳ねるのか理由がわからず、気持ちを理解することができませんでした。

 ある日、Eさんのご両親と施設とでEさんについての相談が行なわれました。お父さんも一緒なのは、ずいぶん久しぶりのことです。翌日登園してきたEさんは、飛び跳ね目線を合わせず、その表情からは必死さとしんどそうな気持ちが伝わってきました。私に何かを訴えて、わかってほしいと言っているようです。

 「昨日の相談、どんな話だったか、お父さんお母さんから話してもらった?」と聞いてみると、もっと必死に飛び跳ねました。このような状態を見て、Eさんは昨日の話をあまり聞かされていないのではと推測し、次のように言いました。「今日、お母さんが迎えに来られたときに、Eさんの気持ちをお伝えるからね」。するとEさんは、まだ目線は合わせないものの、激しく飛び跳ねることはやめました。

 その日の降園時、お母さんとEさん、私の3人で話をしました。「自分の話やから、自分にもちゃんと言ってほしい」という思いを、Eさんの前でお母さんに気持ちを伝えました。
 すると、Eさんはその日初めて私の顔を覗き込み、目線を合わせ、ニコッと微笑んでくれました。Eさんが訴えていたことを言葉にして、お母さんに伝え、それが当たっているとこんなにも喜んでくれるのだとわかりました。

 今回の出来事から推測できるのは、ご両親が自分のことを施設と相談しているのに、その内容を自分にちゃんと話してくれていないことにEさんはいらだっていたのでは、ということです。その気持ちを飛び跳ねることで職員に伝えていたようです。

たとえ言葉でのコミュニケーションが難しくても、ジェスチャーや目線、表情などに注意しながら、ご本人の気持ちや思いをていねいに確認し続けていきたいと思います。
※写真はイメージです。

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