「伝えたい」
会報「第56号 共に生きる」より(令和7年4月発行)
 私は風の子そだち園に入職して3年になる。入職当初から担当しているFさんとGさんは、言葉を話さず、生活のほとんどの場面で支援者の介助を必要とする方だ。表現が弱く、気持ちを汲み取ることが難しいと感じていた。

 その日はFさんの誕生日で、2人だけの特別な外出を予定していた。外出することをグループのみんなと話していると、Gさんが私とFさんの前まで来て、じっと私たちを見つめた。「自分にも話をしてほしい!一緒に行きたい!」と訴えているように感じたので、誘ってみると、その瞬間ニコッとした表情に変わった。本人の思いを実現したいと思い、相談して一緒に行くことにした。外出中のGさんはとてもいい笑顔で過ごしており、自分の思いが伝わったことがうれしい様子だった。

 それから数日後の出来事、丹波の宿泊施設で団欒している時だった。私はFさんの隣に座っていたのだが、ふと少し離れたところにいるGさんを見ると、私の目をじっと見つめて何か訴えているようだった。それでGさんのそばへ行こうとした時、Fさんが私の腕をぐっと掴んで引っ張ってきたのだ。それまでFさんは、手を繋いでくることはあってもそこまで強く腕を掴んでくることはなく、初めてのことに私は驚いた。同時に、「僕のそばにいて!行かないで!」というFさんの強い意思を感じた。なぜなら、先日の誕生日の外出のことを思い出したからだ。Gさんは自分の思いが通じて嬉しそうにしていた一方で、Fさんは口を尖らせ不満気な表情をしていたのだ。「せっかくの誕生日に本当は2人で行くはずだったのに!」と言わんばかりに。そうしてGさんを意識したFさんが、「負けてられない!」と私の腕を掴んだのだと感じた。あらためて、表現は弱くとも感じる思いは我々と同じなのだと実感させられた。

 この経験から、本人の表現を逃さないように心がけるようになった。また周りの職員も一緒になって本人の細やかな表現に着目してくれ、みんなでその時々の思いを共有することができた。

 最近では、やり取りをした時の表情の変化がわかりやすく、目線がはっきり合うようになるなど、その場ですぐに表現をしてくれることが増えたように思う。Fさんにとって思いが伝わり、わかってくれる職員の一人に私もなれたのかなと感じ、うれしくなった。どうしても表現が激しい人に注目が集まりがちだが、表現が弱いからこそていねいに寄り添い、本人が自信を持って気持ちを発信していけるような支援をしていきたい。
※写真はイメージです。

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