「これから3日間よろしくね!」
会報「第48号 共に生きる」より(平成30年11月発行)
 Xさんの担当となり、一緒に過ごしてから10ヵ月が経った。Xさんは、日々の活動の合間に飲み物を自販機で購入され、ご自身で飲んでいる。
 今年の4月に初めてXさんと2泊3日の合宿に参加した時のこと。「3日間ちゃんと無事に過ごせるのかな。Xさんもきっと緊張しているだろうな、大丈夫かな」。私は緊張しながらも、心の中で「よし、がんばるぞ!」と気合を入れながらバスに乗り込んだ。隣に座っているXさんの表情も、やわらかい感じはあったが、やはり少し緊張しているように見えた。「今日から合宿ですね。3日間、よろしくお願いします」と伝えると、Xさんは右手で私の頬にそっと触れながら、穏やかな表情でこちらをじーっと見つめてきた。

 合宿先に到着し、お昼のお弁当をみんなで食べた後、Xさんはカバンから財布を取り出し私に手を差し伸べた。すぐ近くに自販機があったので、「いつもの食後のコーヒーかな」と思い、ついていくと、やはり自販機の前で立ち止まった。そして、ブラックコーヒーの缶を指しながら、「アー!」と言った。小銭を出してXさんに手渡す。「Xさん今日はこれにするんですね。どうぞー」と声をかけるとXさんは、最初に指していたブラックコーヒーではなく、微糖コーヒーを指し、自販機のボタンを押した。そして、いつもは自分で持っているのに、そのコーヒーを私の手に、ポンッと手渡したのである。私が驚いている間に、今度は最初に指していたブラックコーヒーを指して「アー!」と教えてくれた。私は「2本買うんですね。どうぞー」と声をかけた。するとXさんは自販機のボタンを押し、コーヒーを取り出した後、そのまま歩き出した。いつも1本なのに、今日は2本買って2本とも飲むのかなーと不思議に思いながら私たちは食堂に戻った。

 「開けて」と1本目の缶を差し出すXさん。開けて渡すと、すぐに2本目も差し出してくる。さらに開けて渡そうとすると、私の方に軽く押し返してきた。「え?Xさんが飲むんじゃないんですか?」と尋ねると、Xさんは「アー!」と言って何かを訴えてきた。「もしかして私に飲んでってことですか?」。まさかと思い尋ねると、また「アー!」と返事があった。「本当にくれるんですか?ありがとうございます」。私が半ば信じられない気持ちで答え、乾杯のしぐさをすると、Xさんは一緒に乾杯してくれた。まるで「今日から3日間よろしくね」と伝えているようだった。

 合宿初日初めての体験で私同様Xさんも緊張していたと思う。そんななかで、「そんなに緊張しなくていいよ」「今日から3日間よろしくね!」と私の緊張をほぐし、この3日間一緒に過ごそうとしてくれたXさんの思いに対し、純粋に有難くうれしいと感じた。
※写真はイメージです。

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