子どもの「噛む」という行為について
(2020年12月・第513号「風の子だより」より)

 最近、ある保育園の責任者の方と話し合った時のことです。その保育園では、このところ子どもの「噛む」行為が頻繁に起こっていて大変困っているということでした。その園では、子ども同士のトラブルで「噛む」「噛まれる」ということがあっても、誰がしたという相手の名前は絶対に伝えないという園の方針ということでした。

 しかし、噛まれた子の親は、その子が家に帰ったら「誰々ちゃんがした」と言うので、実際は誰かは分かっているのです。でも噛んだ子の親は、わが子が行なったことは知りません。噛まれた子の親は、噛んだ子の親が知らん顔をしているのに気分が悪いと腹を立てています。

 1~2歳児の乳児期では、大抵の子に噛むという行為が出てきます。でも大体は数回で治まりますが、たまに習慣化して何度も繰り返す子がいます。この噛むという行為は、家庭の中ではあまり現れません。保育園のような集団の中の特徴として考えられるものです。物の取り合い、相手と気持ちが噛み合わない、など、言葉が充分発達していないので、腹が立って噛んだり、手が出たりするのです。こんな状況が、保育園の中では、一日のうち何回も起こります。保育士がそばにいて気づいた時は事前にセーブしますが、いずれの場合も一瞬の出来事ですので、間に合わないことも当然起こります。

 乳児期の集団保育の中で、この「噛む」というトラブルは、全国の保育施設の共通の悩みであり、大きな課題です。そして保護者からの苦情の大きな要因ともなっています。この「噛む」という乳児期の子どもの行為は、子どもの発達過程の現象といえます。自我が芽生え、自己中心性がはっきりと現れてきたことを証明しています。したがって「噛む」という行為が起こっても、怒ったり叱ったりしてもあまり意味がありません。むしろ、「嫌だったんだねえ」と理解してあげる一面が必要です。周りの大人の理解が、噛むことへの習慣を防ぎます。

 「噛む子」「噛まれた子」を隠しても意味はなく、大人同士、保育士を含め、子どもの発達や子どもの世界を理解し合えることが何より大切と思います。

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