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視点(45)
能力促進の落とし穴…能力を使うのは誰?

 子育て・保育・療育・教育等、対人支援の分野で気をつけなければならないことがあります。それは、能力を高める働きかけ・やり方によっては、子どもが生きていく上で最も大切にされるべき意思・主体性の育ちを損なってしまう場合があるということです。今回は、能力促進について親御さんや支援者が留意するべきことを取り上げます。

 「先の見通しが持てない不安」「将来本人が困らないようにとの願い」から、親御さんも支援者も「社会適応」「自立」に向けた能力促進に相当なエネルギーを使います。「自分でできる」ことが増えるように、「がんばれ!」「やればできる!」「ほら、できたでしょ!」と大人の願う方向に導こうとします。子どもによって受け止め方は様々です。期待に応えようとするあまり、無意識のうちに自分の意思や欲求を抑制してしまう子、逆に、反発して大人との人間関係がぎくしゃくする子もいます。いずれにせよ、大人の目が「自分でできる」ことに焦点化して意思・感情面への配慮が欠けると、「しっかりしてきた」と見えても、子どもの心には少しずつ我慢・あきらめ・怒りなど負の感情がたまっていきます。

 その兆候は、「笑顔が消える」「誘いかけにすぐに応じない」「一度応じても後で急に怒りだす」「些細なことでぐずる、意地になる」等に現れますが、成果を求めて熱心に指導する大人にはこれら子どもからのSOSはなかなか届きません。意思が軽視されて不本意な経験が重なると、後々の学齢期・青年期・成人期になってから問題が顕在化します。

・能力はあるのに自信が持てない。結果が気になり挑戦できない。
・作業中、活動中に突然感情が不安定になる。しんどくても自分から伝えられない。
・いつも同じようにしないと気が済まない。人からの働きかけ、手助けを嫌がる。
・受け身で、指示や促しがないと行動を起こさない。人の顔色を極端に気にする。
・言葉は教えられた口調で感情がこもらない。返事はするが自分の思いは伝えない、etc.

 ……能力促進への願いとは裏腹に、意思決定・情緒面・人間関係に深刻な問題が生じます。自信のなさ・人への苦手意識・拒否感は、大人になっても根強く残ります。それらは周りの人たちの対応が作り出したものですが、その背景・形成過程は外から見えないので、その人が「性格に問題がある人」「そんな障がい特性を持つ人」と捉えられてしまいます。

 生活する主体はその人自身です。「する・しない」を決めるのは本人、能力を使うのも本人です。そこにはその人自身の「意思」「納得」「喜び」がなくてはなりません。

 能力促進を最優先する考え方は見直しが必要です。大切なのは、本人の物事への興味関心・意欲を育てること、うまくできないときに努力・工夫する力、分からないとき・困ったとき・必要なときに周りの人に援助を求められる「人への信頼感」を育むことです。

 私たちは、何より子どもの主体性を尊重し、時間をかけながら、一人ひとりが自らの意思や意欲に裏打ちされた力を身につけられる支援をめざしたいと思います。

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