視点

視点(30)
攻撃行動と自傷について

 今回は、いわゆる「問題行動」の中の攻撃行動と自傷について取り上げます。ここで言う「問題」とは、「そこに解決するべき問題がある」という意味です。これらの行動は既に幼児期に見られますが、まだ大人の力で抑えることもできるので、「どのようにして止めるか」に目が行き、「なぜそのような行動をするのか」という理解や対応がおろそかにされがちです。しかし、身体が成長し力も強くなる青年期になると、行動が一段と激しくなるので、力では抑えきれなくなります。「そこに解決するべき問題がある」とは捉えられずに、本人の内面(こころ)の理解はますます困難になります。本人も家族も厳しい状況に追い込まれてしまいます。どうすれば、このような事態を回避できるでしょうか。

 「問題行動」があるからといって、その人はけっして気持ちの通じ合えない「特別の人」ではありません。ちゃんと自分の意思、感情を持っています。人間は本来、「安心」「納得」などこころが平穏な状態にあれば、自分自身や他の人を傷つけたり、必死にこだわったりすることはしないはずです。ですから、その人の生活全体に目を向け、どこに「不安」「不本意」を引き起こしている要因があるかを検討し、対処する必要があります。対人関係と自我形成の観点から見ると、負の感情(不快・不安・不満・怒りなど)を自律的にコントロールできるまでには、いくつかの段階があります。叩く、噛みつく、頭突きなどは、「この人に伝えたい」という気持ちがある反面、言葉やしさでうまく伝えられないため、身体全体で必死に訴えている姿と考えられます。「(叩かれた)人が感じる痛みは、本人が伝えたかった痛みそのもの」と捉えると、その意味がよく分かると思います。同様に、自傷(自分の身体を叩く・引っ掻くなど)は、心の中に湧き起こってくる負の感情をしっかり受け止めてもらえず、いらだちや怒りが内向した行動と考えられます。怒りやいらだちが大きい分だけ、それを打ち消すために更に強い力が必要となり、自分を激しく傷つける結果になります。「人への攻撃より、自傷の方がまし」「彼らにとって自傷は快感」「痛みの感覚がない」という人がいますが、誤った認識と言わなければなりません。

 攻撃行動や自傷は、支援者も保護者も冷静に受け止めることは困難ですが、その意味の理解と対応のあり方は将来の方向を左右するほど重要です。「目には目を」式の対応はかえって新たな問題を作り出します。行動の背景を理解するよう心がけ、本人が「分かってもらえて良かった」「これなら安心・納得」と思える対応を積み重ねることが大切です。私たちの経験では、こうした支援を通して確実に問題行動は改善します。青年期・成人期になると、それまでに蓄積された人への不信感や怒りをほぐす必要があるので、多くの時間と労力がかかりますが、幼児期から意思や気持ちの尊重した関わりを継続すれば、改善も早く、自らを窮地に追い込むような深刻な事態は必ず回避できると確信しています。

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