視点

視点(18)
何のための診断?判定?

 お母さん方からお子さんの話を伺っていると、とても深刻な問題に直面されていると感じることが多々あります。例えば、それまで「かわいいな」「こうしてあげたいな」と自然な気持ちで接していたのに、「知的障がい」「広汎性発達障がい」「○○症候群」など、判定や診断を受けた途端に、「こだわりや癖が目について仕方がない」「いらいらしてしまう」「黙って見ていられず、止めさせたい衝動にかられる」というように、子どもを見る目が、恐れや戸惑いに支配された見え方に変わってしまうのです。

 「自閉症は一生治りません」「人の気持ちは理解できません」「分かっているようで本当は分かっていません」というフレーズにとらわれて、ショックのあまり何も手がつかなくなったり、育児が格闘になってしまった経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。

 診断や判定は、あくまで決められたやり方で、その時点の発達状況を評価するもので、将来を決めるものではありません。子どもの姿を正確に捉え、そこからどんな配慮や手立てをすればよいかが導き出されるべきものです。しかし、「評価」は往々にして、他との比較や焦りを生じさせます。そこをいかに乗り越えるかは、親御さんの大きな課題です。

 子どもは絶えず発達する存在です。発達の遅れは病気ではありません。「直す」のではなく、人とのかかわりや自らの経験によって「はぐくみ、育てる」ものです。ですから、どのような視点で子どもの行動を理解し、かかわるかという、私たちのみる目が要です。

 現在思うようにならないとすぐにかんしゃくを起こす子どもは、「一生、人の気持ちが理解できない」のでしょうか? 私たちの経験から言えば、決してそんなことはありません。自分中心に物事を捉えていた子どもも、いろいろな経験をしていきます。特に身近な大人や周りの人たちとの交わりによって、「自分のことを理解してもらえた」という実感を得ると、「この人は良く分かってくれるな」と肯定的な気持ちを抱くようになります。自分のことを理解してくれる人に、子どもは自然に心を開き、思いを寄せるようになります。

 人が好きになると、必然的にその人の表情や仕草、発する言葉に注意や関心が向きます。その人が自分のことをどのように見てくれているかを読み取ろう、感じ取ろうとします。認めてもらうと、安心し、満足し、元気が出ます。その人の話に耳を傾けるようになります。「ちゃんと見なさい、聞きなさい」と指導や訓練で分からせるのではなく、日常のやりとりを積み重ねる中で、子どもの心の中に相手を思う気持ちがはぐくまれるのです。

 難しいことではありますが、診断や判定のマイナス面に振り回されず、むしろ目の前の子どもの心にまっすぐ目を向けるきっかけにして、子どもを信頼して温かく見守る姿勢と、手間ひまかけてじっくり育てるゆとりを持ちたいと思います。

視点ページに戻る

トップページに戻る
運営主体
社会福祉法人 水仙福祉会