エピソード

「エピソード」

<背景>
 私は春にワークセンター豊新に配属された1年目です。Fさんと関わり始めたのは6月ごろからで、最初のころは馴染みの職員が主に入り、何ヵ月かかけて引き継ぎをしてもらいました。Fさんは他の利用者の声や動き、表情に敏感で、緊張感が強いので、Fさんが安心して過ごせる空間を作るため、今は個別に部屋を設けて支援しています。Fさんは自分の思いや考えを絵を描いたり、「オカアサン」など、単語を話して伝えてくれます。不安な時は、馴染みの職員にわかってほしい、側にいてほしいと毎日必死に馴染みの職員を呼んでくるように私に訴えかけていました。馴染みの職員とはFさんが幼いころから関わりがあり、一番つらくてしんどかったときも一緒に乗り越えてきた人です。Fさんが『オカアサン』と呼ぶほど頼りにしていて、Fさんにとって馴染みの職員はとっても大切な存在です。それだけ伝えてくれるのはとってもうれしいし、馴染みの職員がFさんに会えない時は、「これからもずっとFさんのこと考えているし、ワークでも家でもがんばってること、見てくれてるよ、ちゃんと言っておくからね」と関わっていました。
 毎日馴染みの職員を呼んでほしい、というやりとりが続いて、帰園の時間になっても帰りにくいこともあったり…。まだ一度も一緒にお出かけしたこともなく、これからどのように関わりを広げて深めていけばいいか、このままでいいのかなぁ、と毎日考えているころでした。

<エピソード>
 この週も馴染みの職員の写真を出して外を指さし、『呼んで来て』と追い出されるような日もあり、不安な気持ちや困ったことがあれば、「タシロ、オカアサン、モシモシ、オイデオイデ」と言っていました。この日は周りは外の活動が多く、静かな園内でFさんも安心して過ごしていて、ここ何週間で一番リラックスしているなぁと思っていました。昼食の時間になり、うどんを持っていきましたがFさんの苦手な乾麺であったため、Fさんは「ゴハン」とご飯を持ってきてほしいと伝えてくれました。この日Fさんが食べられたのは、ご飯とうどんのだし汁と天ぷらの衣でした。申し訳なくて「Fさんごめんね…お昼からポッキーでも買いに行こっか!」と何気なく言って、昼食の片付けをしている時でした。Fさんは私を呼び、「コピ」と言って私の腕を持って1階の靴箱まで連れて行きました。そこで初めて『ポッキー、買いに行こう』と誘ってくれたのだとわかり、お財布を取りに3階に行くから待っていてほしいことを伝えると園の庭の掃除をして待ってくれていました。私はうれしくて興奮しながら事務所に出かけてくること伝えると、馴染みの職員から「昼食をおなかいっぱいに食べられていないのなら、から揚げもいいかもしれない」と提案があり、から揚げを買いに行くこととなりました。ほか弁まではFさんが導いてくれて、歩いている間Fさんは私の肩に肘を置いていて、ほか弁まで案内してくれて、そんなFさんが私はとても頼もしくて、やっぱり先輩と後輩の関係だなぁと思いながら私はルンルンで歩いていました。部屋に帰ってからはブタの絵をかいてFさんは少し緊張したこと伝えてくれました。

<考察>
 Fさんと関わっているなかで、ゆっくりゆっくり信頼関係を築いていこう、と頭では考えていても信頼関係が急に振り出しに戻るような、そんな気持ちになることが何度かありました。最近は仕事があまりうまくいかずに、すべてダメダメなんじゃないか、とこの日はくじけそうなほど気持ちが落ち込んでいました。そんななかでこの日のできごとは、ただから揚げを買いに行ったという、一見ただの1日の様子ですが、私のなかでは背中を押された、そんな大きな大きな一歩で、自然にやりとりしていることが本当に幸せに思う1日でした。めそめそしていた自分へのFさんからのプレゼントだと思い、この日とてもわくわくしたこと、楽しかったこと、一緒に歩いたこと、これからのFさんとの関わりのなかでもずっと忘れない日となる、と感じました。今では、Fさんのことはとっても頼りになる大好きな先輩の一人で、いろんなことを教えてくれて、感謝の気持ちでいっぱいです。Fさんは時々、鞄の中に入っている本を確認する時があります。その本はFさんの人生が詰まっている本だと一度聞いたことがあります。破れても何度も何度も直してあって、とても大切であることが伝わってきます。つらくてしんどくてどうしていいかわからず怖かった時もあったと思います。昔があって今のFさんである、ということ、ことばで簡単に『わかっている』と言えないですが、忘れないで、これからも少しずつ、一緒に歩んでいけたらいいなぁ、と感じる1日となりました。

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