エピソード

「エピソード」

<背景>
 Eさん(男性・障がい程度区分6)てんかん発作があり、抗けいれん剤を調整したおかげで、ここ数年発作の回数は減ったその反面、微調整をするなかでいろいろなことがあり不安定な時期もあったが、精神科医と連携し、投薬調整を続けている。その後は、意識や意思がしっかりとしてきて状態は安定し、登園もできている。
 担当職員に対し要求や独占欲が強く、思いが伝わらない時は、急に引っ張ったり、何も言わず一人で動くなど突発的な行動に出てしまうことが昨年度末より強くなった。
 本人と私との思いの違いもあるが、私に対する『言いにくさ』や『もっとわかってほしい』という気持ちをうまく伝えられず、前述のような行動になってしまっていた。
 連日この状態が続き、もっと引っ張りが強くなると思うと私も本人とどう関わってよいか悩んでいた。引っ張りが強い時は、施設長や馴染みの職員に間に入ってもらい、本人も理由がなく引っ張っているわけではないことを含め、本人の思いを聞き、今後どのようにしたらよいか共に話をし、「ことばで伝えてもらえると、私もよくわかりますよ」と何度も伝えていた。

<エピソード>
 ある日の昼食後、午後の活動は本人と配達に行く話をしていた。昼食は3階で食べ、食事を終えると本人のクラスである2階に降り、私は活動までまだ時間があったため「(午後)1時まで2階でゆっくり過ごしましょう」と声をかけた。その時、返答はなかったがEさんの表情が徐々に険しくなり始めた。何かつもりがあったのかと思い、私は「何か考えてる?」と聞くと、Eさんは突然、私の手を引っ張り「行こ!」と必死に私をどこかに連れて行こうとしていた。「配達に行くのですか?」と聞くが、返事がない。
 そんなEさんに対し、私もわからなかったが、落ち着いて関わろうと自分に言い聞かせながら「どこに行くの?」と尋ねた。しかしEさんの反応はなく、ひたすら私を引っ張っていた。次第に私自身も慌ててしまっていた。
 私はEさんに引っ張られる形でそのまま外に出た。Eさんの手には財布があったため「自販機?」と聞いてもEさんは私をひたすら引っ張った。私もわからなかったため、とりあえず本人についていった。すると、園の裏の駐車場にたどり着き、そこでやっと表情が戻り「ここでゆっくりするのも大事!」「早めに車に乗り、待っときたかった」とそこで思いを伝えてくれた。
 私は、一方的に本人に時間まで室内で「待っていよう」と声をかけていて、本人の思いや『つもり』を聞いていなかったので、そのことを本人に謝った。すると、Eさんも力が抜け「怒ってる?」「さっき、目怖かったよ!」と伝えてくれた。私は「怒っていないが、引っ張られるのは嫌。きちんとことばで伝えてくれるとよくわかります」と伝えるとEさんも悪いと思ったのか「さっきはごめん」と返答した。その後、活動を一緒に楽しく過ごすことができた。

<考察>
 私は、話が一方的になりがちなため、意識して、本人の思いを確認しながらの誘い掛けや声かけに気をつけていたつもりだった。今回は、Eさんの体調も考え、午後の活動まで室内でゆっくり過ごしてから、という気持ちがあった。そのため、Eさんの思いを確認することを忘れていた。しかし、後にEさんから「目が怖かった」という指摘を受け、私自身が慌てて必死になったり、困っていると怒っているようにEさんに感じさせてしまっていた。その印象が余計に言いにくくさせていたのがわかった。
 Eさん自身、『思い』や『つもり』があり、まずことばで伝えることも難しいため、行動でどうにか表現しようとするEさん。しかし、Eさんが伝えやすいように、私自身が落ち着き、本人の気持ちをゆっくり聞けるような環境作りが必要だと思った。その後、Eさんにも『引っ張りではなく言葉で伝えてほしい』という私の思いも伝えていきたいと思う。
 そして、一緒にいて安心し、信頼してもらえるような存在を目指していきたい。

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