2017年発達講座「本人主体の支援とは〜意思決定支援の『落とし穴』〜」

 障がいのある人の意思を尊重することがますます重視されるようになっています。しかし、行動障がいの激しい人や意思表現が弱い人の場合、その真意を汲み取るのは大変難しいことです。本人の言う通りしているのに怒りだす、本人に合わせているときりがない…。周囲の人の目に『問題」と映っている行動は、本人の切実な思いの表れかもしれません。表面的な「Yes」「No」ではなく、幼児期・学齢期から成人期と、自分の思いを率直に伝えられるようになるには、どのような支援が求められるのでしょうか。真の意味での「意思決定支援」のあり方について理解を深めたいと思います。

- 好評のうちに終了いたしました -

報告写真アンケート はこちら

日時 : 2017年12月16日(土)
午前9時45分〜午後4時30分 (開場 午前9時30分)
会場 : 大阪府教育会館 たかつガーデン 8階「たかつ」
(大阪市天王寺区東高津町7-11 пF06-6768-3911)
対象 : 福祉施設職員、教師、保育士、幼稚園教諭、学生、
ご家族、その他関心のある方
内容 :
講演T 柴田洋弥
「障がいのある人の意思決定支援について〜歴史的経緯と基本的考え方〜」
講演U 稲垣亮祐
「自己意思決定における人の判断能力について考える
 〜精神科医療の立場から〜」
事例報告 行動障がいのある人への意思決定支援
 社会福祉法人水仙福祉会の障がい児者施設での現場実践から
パネルディスカッション
 柴田洋弥、稲垣亮祐、松村昌子、ほか
                        コーディネーター 岩崎隆彦

詳細はチラシをご覧ください。< 表面裏面 (PDFファイル) >
参加費 : 【一般】3,000円 【学生】1,000円
※学生の方は当日学生証を必ずお持ちください
※受講料は返金できません、代理出席は可能です
定員 : 200人
※定員になり次第締切らせていただきます
問合せ : アイ・サポート研究所
〒533-0004 大阪市東淀川区小松1-13-3 水仙福祉会内
<TEL>06-6327-7675 <E-mail>i_support@suisen.or.jp

 
 報告
 平成29年12月16日(土)、2017年発達講座がたかつガーデンにて開催されました。10回目となる今回は『本人主体の支援とは〜意思決定支援の「落とし穴」』をテーマに、講演・事例報告・討議を行ないました。

 はじめに柴田洋弥氏(全国障害者生活支援研究会顧問)から、障がいのある人の意思決定支援について、歴史的経緯と基本的考え方に関する講演がありました。
 ご自身の実践例を踏まえて、重度の知的障がいがある人も必ず自分の意思があると力説。また、 「意思決定支援」には、本人が自力で決められるような支援だけでなく、対話を通して本人の主体的な意思形成を引き出したり、本人の同意のもとで共同決定したりといった、より踏み込んだ支援も含まれるそうで、いずれも「支援者との信頼関係」が基本であり、「本人の嫌がることはしない」のが大原則です。こうした観点から、厚労省が作成した意思決定支援ガイドラインの問題点についても指摘がなされました。

 続く稲垣亮祐氏(精神科医師、さわらび診療所院長)の講演では、福祉分野の支援者に対し「脱構造」「脱言語」の勧めが語られました。
 言葉を使える人が多数派を占める社会では、言葉を通したものの見方・意味づけが当たり前になり、いわば言葉で「構造化」されているとのこと。そのため言葉を使えない人は物事の意味づけを共有しづらく、その混乱からパニックや問題行動が起きると考えられます。
 しかし言葉を使えるかどうかは本来優劣の問題ではなく、言葉を使えない人も生存本能に基づいて判断しているのであり、行動はその人の判断・意思表示そのものであると言えます。また一方で言葉を使える人も、使うがゆえの生きにくさを抱えています。言葉を使える人と使えない人が、お互いに相手の感じ方や価値観を尊重することが、豊かな文化を生み出すことにつながる……参加者からは「その視点で見ると利用者の見え方が変わる」という感想が多く寄せられました。

 午後はまず「行動障がいのある人への意思決定支援」について、風の子そだち園と淡路こども園から支援事例の報告がありました。
 「尋ねたらうなずいた」といった素朴な意思確認では真意を読み違える場合があります。また、支援者側に「能力を伸ばしてあげたい」という思いが強過ぎると、本人が負担に思っていても気づきにくく、結果的に本人の意思表示する力や人との信頼関係を損ないます。このような、意思決定支援の「落とし穴」の典型例が紹介されました。
 これを受けて、講演者と水仙福祉会施設長らによる討議が行なわれました。「問題行動」の意味を本人の立場に立って読み解くと真意が見えてくること、そのために必要なチーム支援等について話し合われました。

 講座には福祉施設職員、支援学校教師、家族など265人が参加。リピーターも多く、理解の輪の広がりと深まりが感じられました。
 なお事例報告の一部は、大阪市社会福祉研究第39号に掲載され、研究奨励賞を受賞した論文「意思決定支援の『落とし穴』〜知的障がいのある人の支援事例を通して考える〜」でも取り上げています。ぜひご一読ください。

 
 写真
松村寛理事長よりごあいさつ
趣旨説明

会場の様子

柴田洋弥氏の講演

稲垣亮介氏の講演

事例報告

パネルディスカッション1

パネルディスカッション2

おわりのごあいさつ

 
 アンケート
約9割の方からアンケート回答をいただきました。ありがとうございます。
講演・事例報告・パネルディスカッションへの評価を平均すると、86%の方から良い評価をいただきました。
(とてもよかった:38%、よかった:48%、ふつう:13%、よくなかった:1%)
これまでの参加回数は、初めての方が74%、2回目の方が16%、3回目以上の方も10%おられました。

ご記入いただいた感想の一部を掲載します。
講演1 柴田 洋弥氏(全国障害者生活支援研究会 顧問)
「障がいのある人の意思決定支援について〜歴史的経緯と基本的考え方〜」
分かりやすく説明してくださり自らの経験談をまじえてだったのでとても勉強になりました。
意思能力法が悪法であるという指摘にハッとさせられました。
本人の意思を尊重する事の大切さを強く感じました。
意思決定を支援する上で理解すべき事を教えて頂け、日々の利用者の方との関わりに活かせる内容で良かったです。
障害者がどう扱われてきたのか歴史から話していただき理解を深めることができた。障害のある人たちをどうとらえるかにより扱いが変わってくる。
関東の選挙の支援をきいて関西でも取り入れるべきだと思いました。
柴田様のやさしく語りかけるお話に聞き入ってしまいました。重度の知的(精神)障害のある方は意思決定がないから後見人についてもらおうという風潮になりがちですが、全ての権利を奪うのではなく、その方の苦手とすることだけをサポートし、ご自分の意思を尊重させていただきたいと思いました。

講演2 稲垣 亮祐氏(さわらび診療所 院長)
「自己意思決定における人の判断能力について考える〜精神科医療の立場から〜」
これまで考えた事のない切り口で、色々考えさせられました。とても大切な視点であり、脱構造化について考えてみたいと思います。もっとゆっくり時間をかけて聞かせて頂きたい内容でした。
むしろ言語によって障害を抱えてしまっているという考え方が驚いた。想像したことなかったがとても面白かった。
常々心に思っている事を先生のお話から聞き、すっきりした気持ちになりました。
言葉で言ってほしいなど、ついつい思いがちで、ご本人主体であることを忘れてはいけないなと思いました。
判断を一人でするように求めるのは、自立を一人でするように求めるのに似ていると思いました。
むずかしい内容だったが納得できる内容でした。学校現場(特に知的障害教育において)、子どもたちをどうとらえ、子どもたちの世界をどのようにどこまで感じることができるか教師の力量が問われる内容だと感じた。
もっと話が聞きたかった。時間が短く感じた。本日の先生の話しを聞いて今後自分自身の仕事のあり方について参考にしていきたいと思えた。

事例報告
「行動障がいのある人への意思決定支援 水仙福祉会の障がい児者施設での現場実践から」
コーディネーター:
事例報告:
岩崎 隆彦(姫島こども園 園長)
村井 千都(風の子そだち園 主任)
堀川 昌利(風の子そだち園 支援員)
田代 直美(淡路こども園 園長)
具体的な例はわかり易くてよかった。あっという間に時間がすぎました。
なぜ?という視点をもつことで、分かりあえる可能性を教わりました。
意思疎通が難しい人に対しては特に、その人の様子や環境をよくみることが大切と感じました。
発表者の思いや気持ちが伝わる内容だったと感じました。
自分も携わってきた中で、重なる部分があり、参考にさせて頂ける部分がたくさんありました。
“表情・行動”→意思表示なのか等、意味を読みとく観察力を磨きたいと感じました。バスタオルで関係性が大きく揺らぐ危うさも感じましたし、困りではない部分からの本人理解を大事にしたいとも思いました。信頼関係はどう形成されていくのか、一人ひとりと向き合っていきたいと感じました。
Tさん(成人)の例をみて、人間はいくつまでも、いくつになっても発達、成長できるんやなと思った。
児童発達支援の事例報告はなかなか機会がないので、大変勉強になりました。親の思いと子どもの思いの温度差が難しいです。
具体的に支援がチームでうまく機能したケースとケース関係者の連携に苦労した例があってよくわかった。特に学校の立場として現場にぜひ伝えていきたい。
「支援者が一方的に作った選択肢をみせてその中から選んでもらう」というのではなく、「柔軟にやりとりしながら、書いたものを手がかりに本人の表現を引き出せないか」というところが私の関心を引いた。
子どもがすごす場面の共有や連携の大切さを改めて感じた。学校にいる時の姿だけがその子の姿だけではないこと、今後も意識したい。

パネルディスカッション
コーディネーター:
パネリスト:
柴田 洋弥(全国障害者生活支援研究会 顧問)
稲垣 亮祐(さわらび診療所 院長)
松村 昌子(水仙福祉会 総合施設長)
黒田 千珠(風の子そだち園 園長)
田代 直美(淡路こども園 園長)
「No」の意志表示をキャッチすることの重要性を改めて感じました。
本当に、利用者の立場に立って考えることの難しさ、勉強になった。
様々な事例を聞く事ができ、自分が関っている出来事と重ね、試してみようと思う事がたくさんありました。
現場の状況等が分かりやすく伝わる話し方をしてくださったこともありよかったです。
正に私の福祉現場で問われていた話であり、分かり易く、スッキリした形でまとめられているところに安心しました。
具体的な現場での想いや失敗、気づきがきけて「やっぱりそうやんな」と思えて改めてチーム(地域)で支援していきたいと思いました。
学校現場でもよく見られる事例もあり、改めて子どもの心を大切にして寄りそうことの大切さを強く思いました。
利用者、家族等コミュニケーションを図ったり職員での支援について話し合いの大切さを実感しました。
行動障害をもつ方の攻撃的行動(暴力や他害)は何か訴えたいことがある、言語手段を持たない人の現れだということに感銘を受けた。
本人の行動や気持ちのとらえ方、色んな支援者側からの見解や考え方に触れる事ができてよかったです。
職員へのフォローのところまで聞けてよかったです。そこが利用者支援にもつながることが分かった。
苦労話が具体的でわかりやすかった。当事者の想いと支援者の温度差も孤独感が生じるが職場の周りの温かい応援も大切と思った。支援者一人で燃えつきても決して良い支援はできないことがよく判った。
事業所の職員としての本音、思いをストレートに聞けてよかったです。
園長先生方の体験事例をたくさん聞けてとても良かったです。日頃利用者さんと関っているからこそ出てくる着眼点等素晴らしいと思いました。

全体について
改めて本人主体の支援とは何かについて気付くこと、学ぶことがあり、今後現場等で使っていき、利用者の方にとってよりよい生活が送れるようにしていきたいと思います。
事例や講師の方の話を聞き、“その方の為”と思って行った支援や介助が本当にその人の想いに沿っていたのかな、とあらためて振り返るきっかけになった。
何か変わった行動があればもちろんだが、いつものこととして見逃しているような行動にも何かしらの意味があるものとして見ていくことの必要性を感じた。
あらためてわたしたちの仕事の大切さとすばらしさをおしえていただきました。
色々な経験、専門(医師・支援員)からの話が聞けて良かったです。日々の支援を振り返る良い機会にさせて頂きありがとうございました。次の機会がまたあればと思います。
初めて参加して、難しいことがたくさんだなぁと思いました。自分の子供にも表れてくるかもしれない課題。その時は、常に本人主体で気持を大切にしてあげたい。
今2歳半の子育て中ですが、いろいろと要求が出てくる我が子に対して、どのように接して子育てしていくのか…ということとも重なることが多かったです。
日々の実践だけでは見えてこないもの、気づかないものが、こうした学習の機会によって少しずつ見えてくる。
昨年に続いての受講となりましたが、意味了解的アプローチのことが、さらに理解できたように思います。
この発達講座では、いつも世間の課題の1歩先のところを取り上げて下さっているので、とても参考になります。毎年、楽しみにしています。
昨年に続き、今年も充実した内容でとても勉強になりました。本人の本当の意思をくみとることに日々苦戦?していますが、意思表示の弱い子どもたちだからこそとくに大切にしていかねば…と思います。
医療、福祉、当事者、家族、学校、司法がみんなが対等で何でも言いあえる環境を作れたらいいなあと思いました。家族支援が重要ということも確認でき、研修に参加してよかったです。
すべてのお話が勉強になり、今かかわっている利用者さんのお顔がたくさん浮びました。自分はまだこの仕事をはじめたばかりでまだまだですが、利用者さんの気持ちを大切にしていきたいと改めて思いました。

参加者の皆様から、今後につながる貴重なご意見をたくさんいただきました。研修企画に生かしていきます。ありがとうございました。

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